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×月×日 続・職人の出番です

 うちの娘は、初節句を迎えたとき実家にある私の雛人形を受け継いだ。正確に言うと、節句のおよばれに戻ったら、昨年まで私の名前のプレートがついていたお雛さんが、「●●(娘の名前)雛」に書きかえられていたのである。そんなこんなで、実家には娘のための大層な雛飾りがあっても、手元にはないので、大袈裟ではなく、それでいて大事にできるものがあればよいなと思っている。

 一案は、紀州雛。根来塗りの雛人形である。ふとしたきっかけでついこの間存在を知った。このお雛さん、私の生まれが紀州なので縁がないわけでもないし、大きさも卓上サイズ、塗り物であるから軽量で我が家向き。そもそもジャパンと言えば漆器を指すわけで、日本の伝統を大切にするという心がけを教えることもできる。よいではないか。なぜ今まで知らなかったのだろう。

 どうも、伝統工芸品というと、昔から同じものが作り継がれていると思いがちなのは、私だけではないはずだ。紀州雛も根来塗りと同じように、数百年の伝統があるのかと思っていた。本当は、昭和初期に初代寺下幸司郎氏が考案したものらしい。考えてみれば、雛人形を飾る習慣が庶民の家庭に広まったのは近代になってからだろうし、それも一般化されたのはそう過去の話ではないと思う。多分、塗りの雛飾りは、地元(海南市黒江)では有名なのかもしれないが、これもまた今やお子様ビジネス商品だ。大手の会社の宣伝に隠れて、あまり表立ってこなかったのだろう。私も親の立場になってようやく気がついたというわけ。それでも、年明けからは注文が急増し、職人さんたちは急ピッチで製作に励むという。

 かつて、女の子のいる家にはかなり高い確率でピアノが置かれてあった。しかしそれももう昔の話。雛人形もそれに近い状況になりつつあるのではないか。お雛さんも、親世代は結構な品を用意してもらったが、都心の住まいには大きすぎるのだ。娘の分と二つ揃えるのか(そもそもは、女の子ひとりにひとつらしいが)、わが子にはお古を授けるのか。そこで、実家には大きなお雛様が、自宅にはインテリアの邪魔にならない位のお雛様が(実家にはアップライトピアノが自宅にはキーボードがという風に)、置かれているのが最近の傾向のような気がする。ただここにきて、猫も杓子もという時代を過ぎて、本当にわが子にふさわしい人形を求めたいと思う気持ちがじわじわと広がっているようにも思う。そこでさぁ、職人さんの出番です。現代の嗜好に合った一品を、ここから伝統になるであろう一品を生み出してはくれませんか。


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