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×月×日 顔長属悲喜こもごも

 夫は顔が長い。大学時代、やはり面長の友人と『カオナガイーズ』を結成しており、歌も録音した。これは大変な傑作で、私も一度か二度聴かせてもらったことがあるが、抱腹絶倒、悶絶ものであった。

 向田邦子さんであったか、エッセイの中で、人間には2種類あって、それは鼻筋の通った人と団子鼻の人である、というようなことを書いておられたように思う。だが私なら、顔長属(それも詳しくは、顔長属スマート種と顔長属濃髭種に分かれる)と、丸顔属に分類するだろう。そして、顔長属と丸顔属の区別よりも、ある種もっと高い壁で隔てられているのが、スマート種と濃髭種の顔長属である。

 たとえば、往年の名俳優ジェームス・スチュアートとハンフリー・ボガート(通称ボギー)。彼らは、顔長属である。もちろんスチュアートがスマート種で、ボギーが濃髭種である。

 私は、日常からちょっと離れてみたいときに観る定番の映画があって、それは『グレン・ミラー物語』(スチュアート主演)と『アフリカの女王』(ボギー主演)なのであるが(なぜこの映画なのか、これが彼らの代表作なのかは、この際よしとして)、これらの映画を比較しても分かるように、二人が、万が一にも主役の座を入れ替わって出演することは無いように思う。なぜか・・・。それはすなわち、スマート種と濃髭種によるパーソナリティの違いに由来する。

 私は常々、ぬぼっとした顔のボギーが、なぜにハードボイルドの筆頭にあげられるのかがよくわからなかった。しかし『アフリカの女王』だけは、まさしく彼の「ぬぼっとさ」が前面に押し出されて名作になっていると思う。中年男のおかしみと独特のかっこよさは、濃髭種の面目躍如たるところ。やはり、こうでなくちゃ。

 それはそうと、片や日本のドラマでは、顔長属と丸顔属をめぐって少々混乱が生じているようである。これも大昔の話であるが、刑事ドラマの金字塔『太陽にほえろ!』では、ハンフリー・ボガートに憧れる「春日部一」という刑事が登場する。もちろん彼のあだ名はボギー。ところが、この和製ボギーは丸顔属の人間なのであるから困った。どうみても、ボギーらしくない。このドラマ、それなりにあだ名の命中率はよいのだから、これは迂闊だったのではないか。もう少し顔長属についての配慮があってもよかったのではと残念でならない。まぁ、だからといって、ストーリーが面白くないというわけではなくて、私としては、和製ボギーが実は3枚目役で、涙もろく、情熱漢であり、おちゃめぶりを発揮してくれたことを内心とても喜んでいる。


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